
『七十歳死亡法案、可決』 垣谷美雨

『七十歳死亡法案、可決』
垣谷美雨
足が不自由でほとんどベッドで過ごす義母、
自分の母親だというのに何一つ介護を手伝ってくれない夫、
一流大学から一流銀行に就職したものの、
再就職が出来ずに引きこもりになっている息子、
をすべて一人で面倒を見て心身ともに疲れ果てた専業主婦の東洋子。
娘もいるが一人暮らしで家のことは全く無関心。
しかし、あと二年で、あの法案が施行される。
そしたら義母は死んでくれて、自分は自由な時間が出来る。
それを励みにあと少し頑張ろうとしていたのだが、
夫は会社を早期退職して、世界一周旅行をすると言い出した。
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身勝手な家族に振り回され、親戚に突き放され
介護も何もかも自分一人に押しつけられ、
オシャレもせず、同窓会にも参加出来ない。
自分はこんなに頑張ってるのに、夫は・・・・
あと2年???
冗談じゃない!
待ってられない!!
こんな生活、
何もかも捨ててやる!!!
って思ったら、もう、家出するよね~~。。。
義母のわがまま、
息子の引きこもり、
夫の家庭を顧みない行動、
娘の無関心、
このくだりを読んでるときは
も~~~こっちまでイライラして、
東洋子ももっとガツンと言ってやれば良いのに、
って、腹がムカムカしちゃってたわ。
家族はみんな、
「とはいえ、お母さんは家事や介護を
ほっぽり出すようなことはしない。」
って思ってるから、あ~~腹が立つわ~。
だから、
東洋子が家出を決めた所からは
ワクワクして一気に読んでしまった。
この、だらけた家族が、
東洋子の家出のおかげで
すっかり気持ちが改まって
良い方向に変わっていくってのが
面白かった。
なるほど、
やはり何でもかんでも東洋子がやってしまっていたのが
家族をだらけさせてしまう要因だったのか、
って思った。
そうよね~。
親が出来ちゃうと、子供も、夫も、
自分でやろうとはしない人間になるんだわ~。
ある程度は、ほったらかしてみる、
可愛い子には旅をさせろ精神だ。
そんで、
二年後にはどうせ死んでしまうと思っている老人は
ますます生きる意味が分からず、
何もする気にならなくなる。
そこで、介護ヘルパーさんが嘘の噂をながすのよ。
「ボランティアで、子供達などに自分の得意なことを教えたりすると、
死ななくて済むという法案も出来た。」
って。
そしたら、全く動こうとしなかった義母も、やる気になって、
急に生き生きと車いすに乗って家事をやるようになったのだ。
すべてが良い方向に向かって、
世の中も変わり、70歳で死ぬ法案もなくなるかもしれない、
という前向きな気持ちになって来るのだ。
人って、ちょっとの勇気でこんなにも周りの人達までも
変えてしまうものなんだと思わせる話でした。